『あやかしの裏通り』ポール・アルテ

あやかしの裏通り

 2010年の『殺す手紙』から8年ぶりのポール・アルテ新作!
 そういえば、ポール・アルテって最近何やってたんだっけ? と公式サイトを見てみたら、何やってたどころかコンスタントに活動されてますね。

 ちなみに、翻訳されたアルテの作品を、本国での発表順に並べると、下のようになります。

『La Quatrième porte』1987年=『第四の扉』2002年
『Le Brouillard rouge』1988年=『赤い霧』2004年
『La Mort vous invite』1988年=『死が招く』2003年
『La Mort derrière les rideaux』1989年=『カーテンの陰の死』2005年
『La Chambre du fou』1990年=『狂人の部屋』2007年
『La Tête du tigre』1991年=『虎の首』2009年
『La Septième hypothèse』1991年=『七番目の仮説』2008年
『La Lettre qui tue』1992年=『殺す手紙』2010年
『La Malédiction de Barberousse』1995年=『赤髯王の呪い』2006年
『La Ruelle fantôme』2005年=『あやかしの裏通り』2018年

 日本においてのポール・アルテは2000年代の作家だけれど、実はデビュー作の『第四の扉』は1987年の作品。綾辻行人の『十角館の殺人』が1987年9月刊行だったことを考えると、まさに新本格と同い年の作家だったことになります。『第四の扉』は日本の新本格の某作品と同一のトリックで話題になりましたが… この辺のムーブメントが、日本とフランスで同時に起こるのは本当に不思議で、興味深いことです。
 このブログでも、過去にアルテ作品について感想を書いたことがあるので読み返してみると… ウン、意外と辛辣だな、当時は(汗)。私はこういう作風、決して嫌いじゃないんですけどね。

 さて今回は、(翻訳された中では)2000年代に入ってからの初めて作品ということで、さぞかし大人のアルテが味わえるのでは… と期待すると、その点はさほどでもないですね(笑)。相変わらず、遊び心あふれる本格パズラーです。ただ私の記憶だと、アルテの初期作品は設定を厳密に作り込み過ぎるところがあり、『七番目の仮説』の感想にも《不可能犯罪という趣向は、設定が完璧であればあるほど、「事件を起こせるタイミングはここしかない」と読者に推測されてしまうものらしい。厳重に封印された箱から奇術師が脱出したら、タネは封印する前か、後しかないのだから。》と書いています。

 それが今回の作品では、いい意味でのユルさが出てきている気がします。
 何より設定がソソられる。

 ロンドンのどこかに、霧の中から不意に現れ、そしてまた忽然と消えてしまう「あやかしの裏通り」があるという。(裏表紙の内容紹介から抜粋)

 シャーロック・ホームズ時代のロンドン。現れては消える幻の裏通り… ここまでワクワクする設定を用意してくれたら、結末なんて多少強引でも全然OKです(笑)。個人的には、初期の『第四の扉』の頃が「フランスの新本格」だとすれば、今回は「フランスの島田荘司」という印象。前半の幻想味にこだわっていた頃の島田荘司作品の匂いがあります。
 このシリーズの続きも読んでみたくなりました。今の時代、前半でワクワクさせる作品って、ありそうで少ないんですよね。

ポール・アルテのサイン

 サイン本当たりました。行舟文化さん、ありがとうございます!


 ご報告をひとつ。9月の鬼子母神のみちくさ市に参加予定だったのですが… またしても外れてしまいました(笑)。抽選ではなく先着順なので、仕事で申し込みのメールが遅れたせいなのですが、なんでも今回は5分で満口になってしまったそうで。もはや一箱古本市に参加するのも、年末のJR切符取りレベルの競争率になってきましたね…(汗)



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