JDカー再読~その1

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気まぐれで読み直した『曲った蝶番』が意外に面白かったので、J.D.カーの読み直しに昨秋からハマってます。途中からは初読の作品も増えて、完全にマイブーム。
mixiで書いた日記に手を加えたものも含め、以下、感想を…

『曲った蝶番』(1938・フェル博士)
由緒ある家柄のファーンリ家に、現在の当主は偽物であり、タイタニック遭難の時、自分と入れ替わったのだと主張する人物が現れる…

このストーリーは秀逸だと思う。昔のミステリは、中盤が取り調べに終始して退屈を感じることもあるけれど、このネタで最後まで引っ張る。

ただ、スジはとても面白いのだがトリックが(笑)。これは反則でしょう。読者には予測不可能ですよ。人によってはカーのベスト1に推す作品だけど、個人的にはどうかな…

『白い僧院の殺人』(1934・HM卿)
現場を取り囲む雪の上には、発見者の足跡しかない…

このトリックは意外に分かりやすいみたいで、私も初読のときから、トリックを当ててしまった覚えがあります。読み返して驚いたのが、犯人絞り込みのロジック。エラリー・クイーンかよと言いたくなるほど、端正な論理展開をみせます。まるでカーじゃないみたい(笑)。アクの強さがないのが、不満といえば不満。

『爬虫館殺人事件』(1944・HM卿)
これは初読ですが、意外な掘り出し物。

フーダニットにこだわったミステリほど、登場人物が没個性的になるもので、上記の「白い僧院」など、その傾向があるのですが、この作品は登場人物のキャラが立ってる。今の読者に受けそう。結果としてキャラ的に犯人ではない、と予測がつく人が何人もいますが…

作品の舞台は1941年。空襲下のロンドン、灯火管制… と、馴染みの薄い要素もあり、筋立てもスッキリして分かりやすい。トリックはちょっと苦しいが、気軽に読める作品で楽しい。

『プレーグ・コートの殺人』(1934・HM卿)
まぁ、メイントリックは乱歩の随筆などでさんざんネタバレされているので、私も初読のときから、トリックは知っていました。しかし読み返してみると、どっちかというとフーダニットだね、これ。

HM卿&ケン・ブレイクのコンビが初登場する作品ですが、これはJDカー名義の探偵役であるフェル博士&テッド・ランポールの関係にそっくり。カーは登場人物がどれも同じような人ばかり、という非難の原因にもなってますが、ファンは意外にそんなことは気にしていません(笑)。これはいわば究極の劇団システムで、「劇団・カー」では50~60代の看板役者がHM卿やフェル博士を演じ、若手俳優がケン・ブレイクやテッド・ランポールを演じていると思えばよろしい(笑)。ケンの恋人のイブリンと、テッドの恋人のドロシーを演じているのも、きっと同じ女優です(笑)。これが多分、カーにとって一番動かしやすいキャスティング。それが失敗するとどうなるかは、後に「弓弦城殺人事件」を読んだ時に味わいました。

『赤後家の殺人』(1935・HM卿)
ひとりでその部屋で過ごした者は必ず死ぬ、という部屋での密室殺人。

今回の再読で一番評価が上がったのがこれ。この「あかずの間」設定は、現代のマンションでは無理だから、当時の英国の大邸宅でしか成立しない、よき時代のミステリという気がします。

やはり後期の「爬虫館」などに比べると、前期の「プレーグ・コート」やこの「赤後家」は力が入っているというか、読んでて疲れるほどの、トリックや趣向がてんこ盛りなのがたまりません。

by kaji



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