『死の相続』セオドア・ロスコー など

 今年のGWは、生まれて初めての「引きこもり連休」ということで、始まる前には読みたい本や見たいビデオをリストアップしていたものの… いざ始まってみると意外と消化できないもんですね(笑)。とりあえず、読み終えたミステリ本の感想を。

死の相続

『死の相続』セオドア・ロスコー
 ハイチに住む叔父が亡くなったことで、莫大な遺産の相続権を得たパトリシア・デイルは、遺言状の開封に立ち会わなければ相続権を失うと告げられ、恋人である画家のカートとともにハイチへ向かう。屋敷に集められた相続の候補者は七人。遺言状の発表と同時に、次々と候補者が殺されてゆき、さらには叔父の死体が蘇ったという噂が流れ始める…

『屍人荘の殺人』がこのミスや文春の1位を獲得し、大ヒットしてから、知名度が上がった作品。実はそれまで私も知りませんでした。

 個人的には、『屍人荘』はさほど評価している作品ではありません。if設定のSFミステリなんて特に珍しくはないし、『屍人荘』が初めてというわけでもないしね。ただ、先行作品としてこの作品を挙げている人がいるのはちょっと違う気がしました。そもそもこの小説、「ゾンビ伝説」のある土地の物語ではあるが、「ゾンビが出てくる」というと語弊があるよね? 類似作品というならもっと知名度が高い、山口雅也の『生ける屍の死』のほうが近いでしょう。

 てかこれ、私はむしろ横溝正史の『三つ首塔』の元ネタかと思ったぞ(笑)。七人の遺産相続人のアクの強さといい、短時間で人がバッタバッタ殺される展開といい… もはや連続殺人の短時間記録に挑戦してるかのようなスピード感。ここまでくると清々しい。
 ミステリ史上においての位置づけとしては、クリスティーの『そして誰もいなくなった』を思わせる設定を、先にやっていることに意義があるようだけど、この作品の面白さはそんな部分にはない。メインであるはずの密室トリックも脱力系だしね。むしろ謎解きについては細かいことにはこだわらず、めまぐるしく展開するストーリーに翻弄される作品。何も考えずに身をまかせるととても楽しい。怪作と言われるに恥じない作品でした。


死体のない事件

『死体のない事件』レオ・ブルース
 靴屋の青年・アランは、村のバブで「人を殺したんだ」と自白し、青酸カリを飲んで死んでしまう。しかし、誰を殺したのかが分からず、死体も発見されない。ビーフ警部とその友人の探偵作家・タウンゼントは、被害者探しの捜査を始める…

 読み始めてから『三人の名探偵のための事件』の続編であることを知りました。そちらは未読ですが、この作品だけで十分楽しめました。

「被害者探し」という異色の設定は、パット・マガーの『被害者を探せ!』より早いらしい。現在ならもっと凝ったシチュエーションを用意するのかもしれませんが、初期の作品で、シンプルであるだけに、かえって作品のコンセプトが明解になっている気がします。

 村から行方不明になった人物をリストアップして、「被害者候補」を訪ね歩く探偵たち。ところが本人が目の前に現れたり、無事が確認されたり… 事件そのものがどこかとぼけた味わいがあって、洒落た感じ。古典ミステリののどかな雰囲気が、いい方向に働いた作品だと思います。他の作品も読んでみたくなりました。



コメントを残す

*