『オッドタクシー』&『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

 久々の更新… とか言ってるうちにもう9月ですね。
 そろそろ年末のベストテン候補も見えてくる頃ですが、今年、国内はまだ勢力図がはっきりませんね。一方で海外は常連=アンソニー・ホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』、ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』など、評判のいい作品がたくさんあるので、意外に豊作の年になるのかもしれません。

 9月現在、私の国内ミステリおよびSFのベストワンは、どちらもアニメです…
 4月から6月まで放送されていた『オッドタクシー』と同じく4〜6月放送の『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』
 もし、このままベストワンがアニメ作品なら、私にとっては2019年の『彼方のアストラ』以来です。

oddtaxi

『オッドタクシー』
(※最終回のネタバレがありますので、未視聴の方はご注意ください!)
 これは友人に薦められて見始めたので、登場人物がみな擬人化された動物たちとはいえ、ほのぼのアニメではないことは最初から承知していました。
 実際に見てみると、想像していた以上にハードでしたね。

 まず、オープニングから海中に何かが沈められていく場面。あれは死体? さらに女子高生の失踪事件、街をうろつく指名手配犯、薬を盗み出す看護師… と不穏な事象のオンパレード。タクシードライバーを営む主人公もまた、自宅の押入れで何かを飼っているらしい… あれは人間なのか、それとも動物なのか?

 これらの登場人物たちの、一見バラバラな事件が徐々に絡み合い最後は一点に収斂していく。一時期の伊坂幸太郎作品を思わせるようなテクニック。素晴らしいのはその構成だけに頼り切っていないところ。ひとつひとつの会話のセンスがいいしテンポも良い。登場人物たちのやりとりを聞いているだけで楽しい。誰にも媚びず、頼らない主人公(小戸川)の生き方が、だんだん愛おしく思えてくる。

 最終回の13話、このアニメの登場人物がみな動物である理由がわかる。実は主人公の小戸川は、ある精神疾患により、周りの人間が動物に見えていたのだ。この「主人公だけ周囲が動物に見えていた」ことで隠すことのできた身体的な特徴(髪や肌の色など)があったはずで、それが犯人特定の決め手になる構成ならばもう文句のつけようがなかった。結果的に、この作品の女子高生失踪事件の犯人の特定は、犯人の回想シーンだけで説明されてしまうので、そこだけが残念なところでした。


 これは余談ですが、たとえば、本当は女性なのに、文章上は男性と思えるように描くという叙述トリックの場合、「犯人は女性である」という前提条件があってこそ効果的なトリックとなるはずです。「犯人は女性である」がなくて、この叙述トリックだけを使っても、女性を男性のように描いたからといってだから何? と思う読者は存在するはず。かくいう私もその一人。
 とはいえ、事件の解決にはいっさい関係がなく、叙述トリックだけが存在する作品もあるにはあるんですよね。しかも、一般的な評価はかなり高い作品で… ただ、上記の理由で私はあまり評価していません(そもそもその作品、回想シーンをよく読めば、叙述トリックはかなりわかりやすいし)。個人の好みと言われたらそれまでですが、私は「その叙述トリックが何のために行われたか」のコンセプトが明快でない作品は、本来はあまり好きではありません。


 まあ、細かい不満はありますが、こんな長編サスペンスが堂々とアニメオリジナルで披露されるようになると、小説の立場が怪しくなってきますね… 確かにアニメは、ビジュアルでキャラを立てやすいし、デフォルメもしやすいという有利な点はあります。しかしそれはアニメの利点を最大限に生かしている、という言い方もできるわけで…
 一方で文章のほうにだって、映像化したら数億円かかるものをキーボードだけで描くことができるという利点はあるはず。頑張って欲しいです。

Godzilla Singular Point

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』
 1999年の『ゴジラ2000 ミレニアム』以降、2000年代になってからのゴジラシリーズは、昭和・平成初期のゴジラではなんとなくやっていたことに科学的な裏付けをつけようとして、試行錯誤を繰り返してきた気がします。
 この作品もそのひとつ。第一回を見たときは、さすが脚本=円城塔、面白いけどちょっと小難しい話かなぁ… と思っていたら、意外に登場人物たちの行動が熱いんですよね(笑)。クールな理系男子だと思っていた有川ユン(主人公)は意外に正義感が強いし、行動派だし。主役に抜擢されたと知り、最初はマジかよと思ったジェットジャガー(ロボット)も、意外とカッコいいし、活躍するし。

 そしてあっという間に迎えた最終13話。ゴジラと戦うため現地に向かうジェットジャガーに、最終兵器の解放コードが届くまで残り20分… こんな時、作中ではあと30分!あと5分!と緊張感のある会話が交わされていても、意外に視聴者は「どうせ間に合うんでしょ〜」と呑気に構えてたりするもんだが、私は緊張していた。
 なにしろ、ここに至るまでの謎がほとんど解明されていないのである(笑)。

 CMを抜くと、放送時間は実質残り24分程度。たったこれだけで、ストーリー上のすべての謎を解き、伏線を回収することができるのか! 決戦まで残り時間はわずか、対ゴジラ最終兵器=ジェットジャガーを目的地まで送り届け、去っていく自衛隊員、そして同じ会社の仲間たち、やがてたどり着く最終決戦地… このへんの展開は熱い! すごく熱い! 熱いが謎は何も解けてない! 果たして間に合うのか!
 …あ、こんなサスペンスの盛り上げ方もあったんだ、と思った(笑)。

 実際のところ、期待しまくっていたゴジラvsジェットジャガーの最終決戦は驚くほど短かった。しかし、不満があったかというと、これがないのだ。よく考えるとそんなもんだよね。自分がすごく好きだった映画のシーン。後で見直してみると、印象的だったそのシーンは一瞬だったってことはよくある。

 いまとなっては、昭和〜平成初期の日本が得意としていた怪獣レスリングは、すっかりハリウッドにバトンが渡されたようだ。なら、こんな実験的なゴジラがあってもいいよね。



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