『孤島の来訪者』方丈貴恵

(※犯人やトリックについては当然明かしておりませんが、一部展開のネタバレがあります。まったく白紙の状態で読みたい方は、ご注意ください)。

 2016年の『ジェリーフィッシュは凍らない』あたりから増えてる気がする「特殊設定ミステリ」ですが、ここ数年、なんか相性が悪いものを掛け合わせてるんじゃないか… と思うものが結構あった。

 個人的には、大ヒットした『屍人荘の殺人』の「ゾンビ+ミステリ」がそう。他には『紅蓮館の殺人』の「タイタニック+ミステリ」とか。沈みつつあるタイタニック号やポセイドン号の中で謎解きとか、落ち着いて楽しめないじゃん! みたいな…
 その点、この作品の期待値は高かった。なにしろ「遊星からの物体X +ミステリ」である。確かに「物体Xは誰なのか」を論理的に推測するミステリがあれば、ぜひ読んでみたい。

 感想としては… ウン、十分楽しませてもらいました。
 その一方で、惜しいなぁ… と思う部分もいくつかあった。

 まず前半、事件の犯人が「人間ではないのではないか」という推測が初めて出てくるシーン。ここはやっぱり、島の住民に伝わっていたという「マレヒト伝説」を撒き餌として先に出しておくべきじゃなかったか。読者の立場としては「特殊設定ミステリ」を読んでいるという意識が最初からあるから、「人間じゃないものが犯人」と言われても、始まったな… としか思わないけど、「作中の登場人物たちは、その推理で納得するのか?」という余計な心配をしてしまう(笑)。「マレヒト伝説」が先に公表されていれば、読者のほうで勝手にそれと関連づけて納得しまうので、この設定にスンナリ入り込めたような気がする。

(注:ここからさらにネタバレあり)
 あとは結末。私は、第一の結末だけで満足だったかな。ここまでなら、与えられた材料で推測可能だしね。
(ただし、冒頭でちょっと印象に残ったテントのエピソードが未回収なことと、P199の「もちろん私もその一員なわけだが」という独白がアンフェアになるな、とは思いましたが)。

 第二の結末に関していえば、あの一行だけで●●●の存在を予想するのは難しい。人間は… 特にミステリファンは、堂々と目の前に置かれていたものが目に入ってなかったときは「やられた!」と思うけれど、目につかないようにそっと置かれたものに気がつかなくても「当然」としか思えないので。たとえ読者に先読みされたとしても、ひっくり返しすぎないのも大事な気がします。

 まあ、いささかの不満はありながら、でもこの作品が嫌いになれないのは、思いついた人ならば他にもいたであろう「物体Xを探す」ミステリを、ちゃんと実現してくれたから。これは掛け合わせとしては間違っていないと思う。逆にこういうミステリは、若手の作家さんじゃないと思い切って書いてくれないのかもしれないですね。



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