『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ

カササギ殺人事件(上)カササギ殺人事件(下)

 この作品に関しては、作品の趣向を明らかにしないと語りようがない。というわけで、一部ストーリー展開をネタバレさせていただきます。未読の方、この先を読むのはご注意ください。もちろん、犯人の名前などは明かしていません!

 物語は書籍編集者=スーザン・ライランドのモノローグから始まる。さらに中表紙が続き、スーザン自身が担当した、アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』が作中作としてスタートする。そう、作中作だってことは最初から明らかにされてたんだよね。ところが、この作中作が上巻すべてを使ってたっぷり描かれるので、いつの間にか作中作だったことを忘れてしまう。

 作中作『カササギ殺人事件』は、1950年代の英国の村を舞台とした、まさにアガサ・クリスティーの世界を思わせるクラシック・ミステリー。村で一番の富豪の豪邸で、家政婦が階段から転落して死亡するという事件をきっかけに、牧師、医者、庭番、そして若いカップルなど、おなじみの登場人物たちが交錯する。この世界観、やっぱり心地よいんですよね。しばらくの間、ここに浸っていたいと思わせる。

 上巻の『カササギ殺人事件』が結末の一歩手前でストップした後、下巻に移ると現実の編集者・スーザンに視点が戻り、そして作中作の作者=アラン・コンウェイが、自宅の塔から転落死したことが知らされる。

 ここで私は、早合点をしてしまう。この作品は、現実パートの編集者たちが、未完に終わった『カササギ殺人事件』の犯人を、残されたテクストから推測し、討論する話だと思ってしまった。そういう、メタな展開を勝手に期待してしまった。

 残念ながら、そうはなりませんでしたけど(笑)。

 実際の作品は、下巻の焦点は作者=アラン・コンウェイの死が自殺なのか他殺なのか、他殺だとしたら犯人は? という方向に向かい、作中作『カササギ殺人事件』の結末部分も無事に発見される。まあ、私の場合は変な方向性を期待したので、アレ? と思ってしまったけど、これはこれでなかなかの力作です。何より、作中作と現実部分、どちらも投げ出さずにちゃんと結末つけましたからね。こういう作品って、どっちかが丸投げされちゃったりするもんね。

 異色作に見えて、実は堂々たる正統派作品でした。ちなみに、結末部分に関していえば、私は作中作のほうが好みかな。現実パートの結末は、もうひとひねり欲しかった気がします。


http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488498122

 おお、連城三紀彦『落日の門』が復刊ですかー!  これは、いいですよ。初期短編のような、コンセプトの明快な作品ではないけれど、90年代の著者の実験精神の結実といえる連作短編集。収録作の「残菊」なんて、まさにこの人にしか書けない、味わいのあるリドル・ストーリーで、個人的には大好きな作品。オススメです。



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