『カメラを止めるな!』

カメラを止めるな

 もうずいぶん前ですが、『運命じゃない人』(05年)という映画がありました。一部マニアに人気がある作品で、今では大泉洋主演の『アフタースクール』(08年)や広末涼子の『鍵泥棒のメソッド』(12年)の内田けんじ監督の出世作、と言ったほうが通りがいいかもしれません。
 主人公の宮田君は、真面目でお人よしな会社員。最近別れた彼女のことが忘れられず落ち込んでいたところへ、友人から電話があり、行きつけのレストランに出かけたところ、そこで新しい女性と知り合うことになり…

 と書くと、ちょっといい恋愛話のように聞こえますが、これが実は初期の伊坂幸太郎のような日常系のミステリー。何でもないと思っていたセリフや仕草に、驚くほど大量の伏線が忍び込ませてあります。私が感心したのは、冒頭で宮田君が会社から帰ってくるシーン。アパートに入った宮田君が、半開きになっていたトイレのドアを閉める動作があるのですが、単なる独身男のだらしない部屋の描写だと思っていたら、このトイレのドアが半開きになっていたことが後に重要な意味を持ってくる。

 そしてもう一つ、この作品のすごいところは、「恋愛ものに見せかけたミステリー」でありながら、映画の最後まで見てみると、ちゃんと「ちょっとイイ恋愛話」にもなっているところです。


 さて先日、一部で評判になっている『カメラを止めるな!』(2017年・上田慎一郎監督)を見てきました。
 ある自主映画の撮影隊が、山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していたところ、そこに本物のゾンビが出現。だが監督はカメラを止めず、撮影を続けると言う…

 いや本当はね、この映画の感想を『運命じゃない人』と並べて書くこと自体がネタバレかとも思います。『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04年・英)や『ロンドンゾンビ紀行』(12年・英)なんかと比較されるべきホラー・コメディですよね。表向きは…

 とはいえ、チラシに書かれているコピー「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる」。これがもうネタバレと言えなくもない(笑)。大抵の人はこのコピーだけで、どんなタイプの話なのか気づいてしまう。つまりこれは、ゾンビ映画に見せかけた、ミステリ風味のコメディ映画。しかし『運命じゃない人』と違うところは、それが伏線であることをひた隠して物語を進めた『運命じゃない人』に対し、こちらはこれが伏線ですよ! と堂々と喧伝しながら、それがどう回収されるかを見せ場にしたところ。

 いわば落語の粗忽者が、やるぞやるぞと思っていたら想像通りに失敗してくれる、あの感覚です。ストーリー自体は、ゾンビ映画やミステリー映画をよく見てる人ならある程度予想できてしまうのだけど、それでも楽しめるのは役者が生き生きしているからだろうし、プロットがよく練られている証拠ではないかと思う。私が見た劇場では、同じタイミングであちこちから笑い声が聞こえていたし、終わると拍手が起こっていた。こんないい雰囲気の映画館は久しぶりで、劇場で見て良かったと思えました。

 ちなみ上映が終わった後、舞台挨拶がありましたが、映画見てる間はケータイを切っているし、舞台挨拶も許可がない限り撮らないのがマナー… と思っていたら、終わる直前に「撮影OK、SNSに載せてもOKですよー」とのことで、慌ててケータイの電源を入れましたが間に合いませんでした(笑)。そんなわけで写真付きの宣伝はできませんが、いい体験ができるチャンスかもしれませんので、劇場が盛り上がっているうちに見てみるのもいいんじゃないでしょうか。



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