『乱歩の幻影』と同潤会清砂アパート

網走発 遥かなり

 島田荘司の初期短編集に『網走発 遥かなり』(87年)という作品があります。

 発表当時の文春ミステリ・ベストテンでは9位(このミスはまだ存在せず)。それなりに評価された作品ですが、今は絶版で電子書籍版も存在しないらしい。人気作家といえども、吉敷や御手洗のようなシリーズ探偵が登場しない作品は厳しいですね。個人的には好きな作品なので、ちょっともったいない気がします。『奇想、天を動かす』(89年)の原型という人もいますが、なるほど舞台となる北海道やピエロなど、作中に登場するモチーフが似ている。何より、一見無関係にみえるバラバラの事件を、強引にまとめあげて着地させる手法がそっくりです。この「強引に」は褒め言葉。当時の島田荘司でなければできない力技だと思います。これが絶版となっているのは、ブラッシュアップ版である『奇想、天を動かす』が完成したから、という事情もあるんでしょうか。

「丘の上」「化石の街」「乱歩の幻影」「網走発遥かなり」の四編が収録されていますが、この「乱歩の幻影」の舞台となるのがこの同潤会清砂通りアパートメントハウス(1号館)。2017年になったら、もう一度だけ写真を撮ろうと思っていました。30年がかりの定点観測の結果です。

同潤会 清砂通りアパート(1)

▲1987年撮影

同潤会 清砂通りアパート(2)

▲1999年撮影

同潤会 清砂通りアパート(3)

▲2003年撮影

同潤会 清砂通りアパート(4)

▲2017年撮影



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