2017年版このミス雑感&『横浜駅SF』柞刈湯葉

 まずは今年の「このミス」雑感ですが、二年連続で単勝を取り逃がしてしまいました(笑)。

・竹本健治『涙香迷宮』の複勝
・ジェフリー・ディーバー『煽動者』の複勝
・ベン・H・ウィンタース『世界の終わりの七日間』の複勝
・ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』の複勝

 これが今年の予想でしたが、下の二作は当初から応援馬券。ジェフリー・ディーバーの『煽動者』は10位と、これは予想通り。『涙香迷宮』の1位は意外でした。むしろ「本ミス」で1位になるタイプの作品だと思っていたので、単勝予想は無理でしたね。ただ、竹本健治氏の再評価はとても嬉しいことで、これをきっかけに『狂い壁、狂い窓』『腐蝕』等、絶版になっているが良い作品の復刊が進んでくれるといいのですが。


横浜駅SF

 このミス作品を物色に行ったおり、イラストに惹かれてジャケ買いしたのが、この『横浜駅SF』(柞刈湯葉)。冬戦争と呼ばれる世界大戦の後、自己増殖を始めた横浜駅が本州の99%を覆い、四国は無秩序状態、北海道と九州だけが、海峡を挟んで増殖する横浜駅との戦いを続けているという、かなりぶっ飛んだ世界観のSF。横浜駅の駅外で生まれ育った主人公のヒロトは、偶然手に入れた18きっぷで、生まれて初めて「エキナカ」に入るが…

 個人的には当たりでした。世間ではキャラの造形が薄いことや、ストーリーの起伏の乏しさが指摘されているようですが… それにも理由があるといえばある。この作品は、横浜駅に侵食された直後の状態ではなく、それから数百年後の世界を舞台にしているため、主人公にとっては横浜駅に覆われた世界が「普通の状態」であり、また横浜駅も自己増殖を繰り返しているだけで、意図的に主人公たちを殺戮したり、搾取したりしているわけではない。つまり、主人公には横浜駅と戦う強い動機がなく、駅を崩壊させることは、エキナカで暮している普通の人々にとっては、一種のテロ行為であることも理解している。もともとストーリーよりも、世界観やディティールで勝負するタイプの作品ではあるので、ドンパチが少ない淡白な展開もアリだとは思う。

 これを初めてエキナカに入った若者のロードムービーだと受け取ると、主人公がエキナカで出会う人物やエピソードがボリューム不足なのが、不満点ではあります。この設定をフルに生かすには、その中で暮らす人々の連作短編集のような形式の方が向いていたのかもしれないけれど、それはこの後に出版されるという続編(外伝)に期待するとして… とにかくこの作品に関しては、主軸となる長編ストーリーを組み上げて、ネタだけで終わらせなかったことを賞賛したい!

 ちょっと前の作品ですが『鴨川ホルモー』の正編と外伝を思い出しました。あんな感じで、続編とセットで楽しませてくれることを期待しています。



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