2017年度このミス馬券など

 あっという間に12月。今年もベストテンの時期になりました。
 できれば予想に参加したいところですが、相変わらず「今年の新作」を読むのが追いつかず… せめて対象作品の中から、気になったもの数作の感想を載せておきます。

『わずか一しずくの血』(連城三紀彦)
 作者の没後に単行本化された長編に順位を付けるとしたら、私は「女王 > わずか一しずくの血 > 処刑までの十章」でしょうか。日本全国各地で発見されるバラバラ死体、犯人の超絶動機と、連城ミステリらしい要素は詰まっているものの、結末がちょっとパンチ不足。連城ファン以外に薦められる作品は『女王』までかなぁ…

涙香迷宮 〜 竹本健治

『涙香迷宮』(竹本健治)
 最近では珍しい、ストレートな暗号ミステリ。暗号作成に手間がかかっている点では、史上最高レベルかも。難を言えば、暗号ミステリは、作成には手間がかかっていても、解決は「ある一点」に気づくだけですべてが瓦解するほうが鮮やかさが増すもので、江戸川乱歩『二銭銅貨』、泡坂妻夫『掘り出された童話』など、名作といわれる作品はすべてここをクリアしていますが、こちらは解読にも手間がかかっているのが残念なところ。それにしても牧場智久シリーズとしては久々の力作。同じ作者の『ウロボロスの偽書』がベストテン入りしたことを考えれば、これは入るべき作品。

テロ 〜 フェルディナント・フォン・シーラッハ

 海外作品では、
『テロ』(フェルディナント・フォン・シーラッハ)は、あくまで思考シュミュレーションであり、戯曲としても小説としても、完成された作品ではないと思います。『ささやかな手記』(サンドリーヌ・コレット)はポケミスから出版されましたが、作者自身が述べているように、これはミステリではないですね。『煽動者』(ジェフリー・ディーバー)は、キネシクスがあまり活用されないので、キャサリン・ダンスじゃなくてもよかった印象。さすがの安定感ではあるのですが…

煽動者 〜 ジェフリー・ディーバー

 というわけで、
・竹本健治『涙香迷宮』の複勝
・ジェフリー・ディーバー『煽動者』の複勝
・ベン・H・ウィンタース『世界の終わりの七日間』の複勝
・ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』の複勝

 以上を今年の私の馬券(?)とします(競馬の複勝は3着までですが、この予想はベスト10入りすれば的中というルールで)。ただ、ゾラン・ジヴコヴィッチは幻想文学扱いでしょうし、『世界の終わりの七日間』も実は難しいと思っている。この二作は応援馬券ですね。


 創作小説に関しては上記の通りですが… 実は私が、今年一番熱狂したのは↓このサイトでした。

 本当に危ないところを見つけてしまった〜倉敷編 http://ooparts.konjiki.jp/
 本当に危ないところを見つけてしまった〜完結編 http://exorcist.ohuda.com/
(↑広告ページが表示された場合は、右上の「スキップ」を押してください。2016年12月現在、まだこのサイトは現存しているはずです)。

 2004年9月に、2ちゃんねるのオカルト板で起こった騒ぎのまとめサイトです。オカルト板に詳しい人にとっては有名な事件らしい。私は今年まで知りませんでしたが。
 2004年というと、2ちゃんねる発祥の「電車男」が話題になった年。つまり私は今頃になって「電車男は面白いぞ」と騒いでいるのも同然なのですが(笑)、あまりの面白さに毎晩パソコンに向かい、数日かけて一気読みしてしました。

 事の起こりは2004年の9月12日、通称=HINAと呼ばれる人物の書き込みから始まります。

「男友達数人と、倉敷のある山に肝試しに行ったところ、地下に降りるような扉(蓋)が地面にあり、中に入った男友達が帰ってこない」

 いかにもネタ臭い書き込みで、どこでボロを出すかと数人が相手をしていたところ…
 その山なら近所だから、現地に様子を見に行ってみると立候補する者が現れる(通称=黒帯)。
 黒帯の出発とほぼ同時に、さらに2グループがその山に向かう(通称=566と通称=区らしき)。
 そして深夜、区らしき「HINAの話に出てくる蓋」と思われる写真をアップするのだが… 同じ場所に行っていたはずの566は、そんな蓋はなかったと言う(もともとHINAの話はネタだと思われていたため、このへんでスレの雰囲気は「HINAの話のモデルになった蓋を探せ」に変わっています)。

 区らしきの写真に納得がいかなかった566は、翌日の夜も蓋探しに行くことを決めるが、今度は自分も参加したいと希望者が続出する。ところがこの探索者たち、あらかじめ待ち合わせ場所を決めたにも関わらず、いつまでたっても現地で合流できない。
 会えないはずだ。この中には釣り師が混ざっている。
 実際には現地にいないのに、さも行ったかのように実況している者が混ざっているから、事態はますます混乱する。
 もうここから先は、釣り師とガチ突入組、入り乱れてのライアーゲーム。

 結局この騒ぎは、9月22日にいったん収束した後、07年に再燃し、「区らしきの写真の蓋」が発見されるまで足掛け3年に渡って続きます。オカルト板で起こった事件とはいえホラー要素はほとんどなく、「蓋は実在するのか、あるとすればどこにあるのか」「誰の話が本当で、誰が嘘をついているのか」がこの話のメイン。どちらかというとミステリ寄りです。

 この話を読んでいると、現実の事件と本格ミステリの世界は、こうも違うものかと思い知らされます。本格ミステリの犯人は、自分の発言のたった一カ所の矛盾点を突かれただけで、降参してすべてを白状したりしますが(笑)… この事件の登場人物でそんなタイプは少数派です。主要登場人物の○○氏など、当初から信憑性の怪しい発言を繰り返しているのですが、現実の世界では発言の整合性より、勢いで押し切って、スレの雰囲気を味方につけたほうが効果的であることがよく分かる。

「犯人以外の登場人物は、理由がないかぎり嘘をつかない・ついてはいけない」という本格ルールに慣れ親しんでいる立場としては、「誰がいつ嘘をついても不思議はない」というルールで進行する、反則だらけのゲームが新鮮でした。もしもこのスレのまとめが、「電車男」のように紙媒体で出版されていたとしたら、私は何の迷いもなく、2004年のベストワンに推したと思います(笑)。

 とはいえ「蓋を探すだけの話」の何が面白いの? と思った方は、騙されたと思って読んでみて欲しい。もしも探しているものが、霊やUFOやUMAだったら、一晩寝たら正気に戻って誰もが興味をなくすはず。「蓋」というあり得るものだったから祭りは続いた。掲示板の再録という形式も絶妙で、これがリライトされた小説だったり、映像化されたものだったりしたら、やはり「蓋があったからといって、だから何?」という思いが忍び込んできた気がするのです。

 一日ではとても読み切れない長いまとめですが、読んだことがなかった方は、年末年始にでもどうでしょうか。



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