『世界の終わりの七日間』ベン・H・ウィンタース

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(※明確なネタバレはしていませんが、未読の方はご注意ください)
2013年『地上最後の刑事』、2014年『カウントダウン・シティ』に続く、三部作の完結編。「あと半年で、地球に巨大な小惑星が衝突し、人類は壊滅する」という設定で始まるSFミステリ。三作目『世界の終わりの七日間』では、残り時間は一週間となる。

正直に書くと、ハードボイルドは苦手である。トリックやプロットに工夫があるものは別だが、主人公の過去や職業に対するこだわりがどうにも理解しずらくて、もっと簡単に生きろよと思ってしまう(笑)。このシリーズにしても、「特殊状況下での動機」というテーマがあった第一作とは波長が合ったが、第二作『カウントダウン・シティ』には目立った趣向がなく、物足りなさが残った。

『地上最後の刑事』にこんな場面がある。
「あなたはなぜ、ずっとやりたいと思っていたことをしに、どこかへ行かなかったんですか?」
そう尋ねる主人公のパレスに、検視官=アリス・フェントンはこう答える。
「これ(検視官)が、私がずっとやりたいと思っていたことなのよ」

まだ警察機構が機能していた第一作には、組織もあったし業務もあった。第二作では警察組織はもう解散しているが、失踪者探しという依頼があった。そして第三作、業務も依頼もなくなった世界で刑事であろうとすることは、それが正気を保つための手段だったとしても、行き過ぎるとそれもまた狂気になる。しかし早くに両親をなくし、妻も子供もいないパレスにとって、「刑事であったこと」の代用品は存在しない。「父であった」も「夫であった」も選べない。やがて妹もなくしたとき、残るものは「刑事であった」だけになる。だからこそ、終盤、まるで憑き物が落ちるかのように、「刑事であること」からも手を離すパレスがせつない。

「隕石もの×ハードボイルド」。意外な相性のよさだった。通常の設定なら鼻につきそうな主人公の行動原理がすんなり落ちる。三部作を支えるラストシーンでありながら、ラスト一行は淡々とした描写でさらっと終わる。そのいさぎよさは見事だった。

とはいえ、人類滅亡まで用意されないと主人公のこだわりに共感できない私は、やっぱりハードボイルドが苦手なのかもしれない(笑)。



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