『海と月の迷路』大沢在昌

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内田康夫『棄霊島』、恩田陸『puzzle』など、廃墟となった軍艦島が舞台のミステリはいくつかあるが、これは史上初の「現役時代の軍艦島」が舞台のミステリ。昭和三十四年四月、主人公の荒巻は、N県にある炭鉱の島・H島の派出所勤務を命じられる。着任から約一ヶ月後、島で女子中学生が海に落ちて水死する事件が起こり、自殺という結論に疑いを持った荒巻は、独自に捜査を始める…

軍艦島ファンの立場からこの小説を読むと、ちょっとサービス不足の気もする。もしも作者に軍艦島に対する過剰な思い入れがあれば、鉱員だけでなく奥さんや子供達まで登場して、その暮らしぶりをたっぷりと描写しても不思議はなかった。最初は自分もそんな作品を期待していた。しかし作者はそれらを全部カットして、「島外からやってきた巡査の視点から描く警察小説」に徹する。

そもそも東西約160m、周囲約1,200mの小さな島で大がかりな犯罪というのは不自然だし、新任の巡査が一人で(何人か協力者はいるが)解決できるなら、事件のスケールは自然小さくなる。そのスケールに見合った登場人物だけを配置し、無駄に多視点の群衆劇にはしなかった。正解だったと思う。

不満がないわけじゃない。島民たちは、主人公に大事な情報を簡単に漏らしすぎだし、ほぼ同じ年齢、同じ炭鉱で働いている男たちだから、最初はちょっと見分けがつきにくい。もっとキャラを明確にしてくれてもよかった。しかし小説の後半、隠密に捜査していた荒巻の行動が明るみに出たとき、協力する者・反目する者、それぞれの立場が明らかになり、物語はグンと面白くなる。

さて、この小説が評判になったら、次に来るのは映画化ですよね。やってくれますよね(笑)。今なら巨大なオープンセットを組まなくてもCGで再現することは可能だし、「立体迷路のような島を歩き回る楽しさ」は、ビジュアルがなければ味わえない。小説の力を疑っているわけではないけれど、映像化して初めて完成するネタというのもあると思うのだ。作者もどこかでそれを期待してるんじゃないかと思うのだが…

さて、これから読む人の役に立つかどうか分かりませんが、ここから先は実物の写真をご覧下さい。

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↑小学校から見た、島の東側。海から突き出しているのが、ドルフィン桟橋の痕。

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↑ドルフィン桟橋に上陸した乗客は、地下道を通って島の西側の居住区に着く。地下道を出てすぐの場所にあるのがこの30号棟。小説の中では小宮山(金太郎)の住居。

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↑30号棟はロの字型の構造で、内部にこのような吹き抜けを持つ。大正五年に建設された、日本最古のRCアパートメント。

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↑30号棟の回廊のアップ。

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↑一番手前に映っている建物が21号棟で、派出所はこの1階にあった。その奥の白っぽい建物が22号棟で、荒巻の宿舎。その奥の細長い建物が31号棟。荒巻が通い、長谷川と出会った浴場があった建物。

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↑メガネと呼ばれた堤防。物語の冒頭で、荒巻が片桐と釣りに行く場所。

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↑日給社宅の屋上庭園。右から16号棟、17号棟、18号棟、19号棟が、正面に見える渡り廊下でつながっている。

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↑同じく日給社宅。地上から見上げたアングル。この下層階にタヌキ食堂があったことになる。

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↑軍艦のような形がよくわかる写真。左上に派出所のあった21号棟、荒巻の宿舎の22号棟が映っています。



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