JDカー再読~その7

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『三つの棺』(1935・フェル博士)
高校時代以来の再読。現象としての不思議さを優先し過ぎたのか、この解決はさすがに無理があるのでは…
一方で、HM卿シリーズのドタバタのような別の楽しみ方があるわけでもない。密室講義のせいで知名度は高いけれど、上の下、または中の上の評価になってしまうのは仕方ないのかもしれないなぁ…

『パンチとジュディ』(1936・HM卿)
結婚式の前日にHM卿に呼び出された元情報部員のケン・ブレイク。HMの指示で元スパイの老人の家に潜入すると、そこで死体を発見。警察官、牧師と次々に衣装を替えて逃げ回ることに…
ここまで先読みできない話も珍しい。カーのプロット作りの才能の一端を感じさせる作品だと思います。ただ、綺麗に収束できないんだよね。そのへん、乱歩と似ています(笑)。

『ビロードの悪魔』(1951)
いやいや、これはなかなか楽しいカー風チャンバラ小説。もしもこの設定が、作中の毒殺事件の「意外な犯人」を成立させるために作り出されたのだとしたら笑える。確かに冒頭から手がかりは明示されてます(笑)。
英国の歴史に詳しいわけではないので、苦しかった部分もありますが、長さを感じさせない娯楽作です。

『囁く影』(1944・フェル博士)
中期の傑作として最近なぜか評価の高まっている作品。
再評価の理由も分からなくはありません。お得意の不可能犯罪はあるものの、無駄に複雑化していないので、トリックもプロットもすっきりしてる。ただ、設定に派手さがなく、静かな雰囲気の作品であるだけに、トリックから逆算したような登場人物設定が気になります。

『弓弦城殺人事件』(1934)
15世紀の古城に甲冑室… 邸内の見取り図が欲しかったという意見も聞くが、私はこの「読んだだけではどこがどう繋がっているのか分からない構造」が、逆にこの古城の雰囲気を高めていた気がします。
舞台は最高。トリックもそこそこ。なのに名作の仲間入りができなかったのは、探偵役が没個性すぎるせいか。これを読むと、カーの作品にはHMやフェル博士のようなアクの強い探偵役が必要だったことが良く分かる。

『青ひげの花嫁(別れた妻たち)』(1946・HM卿)
ある舞台役者のもとに、11年前に姿を消した連続殺人鬼をモデルにした脚本が送られてくる。そこには真犯人しか知らない事柄が描かれており…

世間的にはまったく無名ですが、私は楽しく読みました。死体消失のトリックは確かに腰砕けかもしれない。しかし冒頭は相変わらず上手いし、中盤までのストーリー展開は面白い。結末で破綻しても、それまで楽しませてくれたからいいや、って考え方もあると思う。
「死者はよみがえる」にしても「パンチとジュディ」にしても、犯罪部分のトリックで減点されているわけで、無理に殺人事件を起こさずに(または不可能犯罪にせずに)、主人公がひたすら巻き込まれるだけのストーリー主導型の話にしていれば… あるいは冒頭のシチュエーションだけを脚本家に渡して、映画化でもしていれば、意外に面白い作品になった気がするんですよね。そんな作品がカーにはたくさんあると思う。

by kaji



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